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EP06「新世界」

 -12/1 PM08:21 夜城家-

レイナ「ねえ、レドナ君ちょっと来て。」
レドナ「ん?」

 レイナに呼ばれて、俺はレイナが寝ているベッドの横に来た。レイナはテレビを指差した。
総理がなにやら記者会見を始めているようだ、俺は政治に興味は無いが右上のテロップに目がいった。

-未来から来る侵略者リネクサスに立ち向かう-

 ついに政府はリネクサスとの戦いについて発表したのだ。まぁ俺にとっては公表されようがされまいが関係ない。

レイナ「大きなロボットで攻めてくるんだって・・・ちょっとワクワクするね。」
レドナ「レイナは怖くないのか?」

 いかにもレイナらしい明るい発言に俺は笑みをこぼしながら聞いた。

レイナ「それは怖いけど、でもレドナ君が傍にいてくれるから大丈夫だよ。」

 そういってレイナは俺の腕に抱きついた。

レドナ「・・・・あぁ、絶対にレイナは俺が守る。」

 絶対に、レイナと永遠に暮らせる世界を作ってやる。レイナのためなら――。


EP06「新世界」


 -12/2 AM08:34 陽華高校 2-A-

真「な~、お前は大丈夫なのか?なんかいろいろやばいっぽいけど。」
暁「多分・・・大丈夫なんじゃね?」

 そう言って俺は新聞をパラパラ捲って、政府の会見の記事を見つけては切り抜いた。

真「お前さんとこと新防衛庁とは関係ないのかよ?」
暁「ARSは表政府と仲が悪いらしい、裏政府からは好かれてるようだけどな。」
真「あのオッサンは悪い人じゃないのは分かったけどさ、なんか怪しいんだよなぁ~。」

 真は吉良のおっさんから殴られた慰謝料として云十万円貰っていた。

暁「吉良のおっさんは結構いい人間だぜ?
  俺もARSにいる以上、おっさんの指示には従うつもりだ。」
真「んで、その命令が"慌てるな"ってわけか?」
暁「御名答、正解者へのプレゼントにコレを上げよう。」

 俺は新聞の切りくずを真に渡した。真はそれを丸めてゴミ箱目掛けて投げた。見事紙玉は弧を描き、ストンとゴミ箱に入った。

真「見事ゴミ箱に入った記念に歓声を上げることを許可しよう。」
暁「わー、すごーい。」

 真の許可に俺は棒読みで言った。

真「な~んか、たった2日なのに大分世界も変わったな。」
暁「あぁ、今から年号変わっても可笑しくないな。」
真「ははっ、それいえてる。」
小夜「ほ~んと、大変よね~。」

 突然横を通り過ぎた岸田は机の上の記事の切り抜きを取って見た。

小夜「これ集めて何するの?」
真「男の浪漫ってやつかな・・・・。」
小夜「さて、真は置いといて、暁何すんの?」

 外を見ながらかっこつけて言った真をよそに、質問の矛先は俺に向いた。

暁「大した理由はねぇけど、なんか面白そうじゃん?」
小夜「私はちょっと怖いかな・・・、この前も東京の方に現れたんでしょ?」

 2日前の東京湾埋立地での戦闘を思い出す。レドナの事もだ。

真「ま、俺らも馬鹿やれるウチに馬鹿やりまくって、悔いの無い人生にしようぜ!」

 真がニコっと笑って言う。

小夜「真は馬鹿しすぎだって。」
暁「・・・・同感。」
真「うぉい!それなんだよ!」

 今は笑っていられるが、ほんとうにいつまでもこの笑顔を続けられるだろうか。少し心配になる。
そうこう話しているうちに、HRの時間となった。

担任「さて、急で申し訳ないが今日から一緒に学校生活を共にする転校生を紹介する。」
真「マジっすか!?女の子!?」
担任「高田、落ち着け。」

 真の反応にクラス全員が笑った。

担任「さ、入って。」

 教室前方のドアが開く、見覚えのある少年が入ってきた。

暁「っ!?」

 俺は驚きの声を上げそうになった。そこに居たのは"夜城 レドナ"だった。

担任「夜城 レドナ君だ、皆なかよくしてやってくれ。」
レドナ「・・・よろしく。」

 ポツリとそれだけ言うと、女子の歓声が一気に湧きあがった。

真「ほぉ・・・なかなかのイケメンだな。」
暁「ぁ・・・・・あぁ。」
真「どうした暁?お前、惚れたか?」

 ニヤニヤ笑う真。俺は目の前の現実を直視できなかった。

暁「い、いや、なんでもない・・・。」

 まさかリネクサスが学校に来るとは。俺への刺客だろうか。だがドライヴァーは機神に乗らない限り死なない。
となると俺の監視、ARSの所在を調べる気だろうか。どちらにしろ大きな障害であることに変わりない。

担任「一番後ろの窓側の席に座ってくれ。」

 夜城はコクリとうなずくと、スタスタと席に向った。

担任「それじゃ、HR始めるぞ。」

 俺はチラリと夜城を見た。マンションの下で会ったヤツも、黒いエインヘイトにのっていたヤツも、夜城で間違いない。
放課後にでも俺は話をしてみようと思った。


 -12/2 PM04:23 陽華高校 2-A-
 帰りのHRが終り、ついに真相解明の時となった。だが、放課後でも転校生の人気というのは続いた。
女子数人に質問されているが、一言二言で終らせる夜城。鼻の下も少しも伸びていない。

真「なぁ、暁・・・俺思うんだ。」

 横目で見ていた俺の肩に手を置き、真が語りだした。

暁「何だ?」
真「アイツ、絶対グラビアアイドルと付き合ってるな。」
暁「ぶーっ、な、何だいきなり。」

 唐突な真の発言に俺は噴出してしまった。

真「じゃねぇとあんなに女の子に囲まれて平然としてられるワケない。」
暁「・・・つまり?」

 その結果とグラビアアイドルの接点がつかめなかった。

真「女の子に囲まれるのに慣れてるってことさ、囲いってヤツだな。」
暁「"囲い"と"かっこいい"をかけてるのか?」
真「おっ、そういう捉え方もありだな。」

 ダジャレかと思ったが、違ったようだ。

真「女の子に囲まれる、いわゆる楽園ってヤツだ・・・、羨ましいと思わないかワトソン君!」
暁「俺は宇宙人を囲む女は嫌いだな。」
真「?」

 真がキョトンとした目で俺を見る。

暁「アイツ、リネクサスの一員だ。このまえ戦ったときアイツの顔を見た。」
真「ちょ、マジかよ!?」

 目を見開いて真も夜城を見た。

真「お前殺られるんじゃねぇのか?」
暁「言っただろ?俺はドライヴァーだから普通の死に方じゃ死なない。
  だからアイツがここに転校した目的は他にあるはず。」
真「殺す以外の目的・・・分かった、監視か?」
暁「多分、俺もそう思う。だからこっちから手を出してみようと思うんだ。」

 その時、夜城は自分の鞄を肩にかけ、はしゃいでいる女子を無視して教室の外に出た。

真「俺も付いていこうか?」
暁「いや、いい。お前は生身の人間だからな。」

 俺も鞄を持って席を立った。

真「そっか・・・じゃあな、暁。」
暁「またな。
  あ、暇だったらさっきのグラビアアイドルと囲まれ慣れについて簡潔にまとめて教えてくれ。」

 そういい残して俺は夜城を追いかけた。

 -

暁「お~い、夜城っ!」
レドナ「・・・・。」

 相変わらず夜城は振り向いただけだった。

暁「お前、なんでここに――」
レドナ「ちょうどいい、お前に話がある。」

 話があると言った割には何も言わずに歩き出した。付いて来いということなのだろう。
質問しても答えないヤツだとは分かっていたため、黙ってその背中を追った。
 向った先は意外にも屋上だった。
 辺りは夕焼け色に染まり、じょじょに暗くなっている。

暁「お前、俺の監視でここにいるんだろ?」

 フェンスに寄りかかる夜城に俺は覚悟を決めて言った。

レドナ「いや、学校に来たかったからだ。」
暁「どういう意味だよ。」
レドナ「俺だって17なんだから、高校ぐらい来たっていいだろ。」

 ごもっともな事を言う夜城。

暁「リネクサス絡みじゃないのか?」
レドナ「関係ないな、俺はただの高校生"夜城 レドナ"だ。」
暁「じゃあ何で戦うんだ?」
レドナ「守りたいものがあるからだ。」

 リネクサスなんかに守りたいものなどあるのだろうか。

暁「何だよ、守りたいものって。」
レドナ「教える筋合いは無い。」

 淡々と言う夜城。

レドナ「付け加えておくが、俺はARSに恨みはない、お前にもだ。」
暁「じゃあ何で戦うんだよ!?」

 恨みも無しに、何故夜城はエインヘイトに乗れるのか、不思議でならない。

レドナ「言っただろ、守りたいものがあるからだ。」

 ループ状態になりかけた話を戻すため、俺は夜城の話を聞こうとした。

暁「・・・・そういや、お前の話ってなんだよ。」
レドナ「俺たちが戦場で会うとき以外はただの同級生だ。
    お前を殺そうともしないし、監視もしない。」

 何だかんだで、夜城はいいやつなのだろうか。リネクサスといえば極悪な集団という固定概念があった。
カイルが初戦だったことも深く関連付いていると思うが。

暁「だから、俺も手を出すなってことか?」
レドナ「俺の相手は"サンクチュアリ"の"ドライヴァー"だ。
    あいつが出ない限り俺はリネクサスとは何の関係もない。それだけだ。」

 夜城の言葉に裏が無いかどうか、俺はその意味を考えていた。その時携帯の着信が鳴った。
俺のでないということは、夜城のだ。夜城がポケットから携帯を取り出す。

レドナ「もしもし・・・あぁ、分かった。
    レイナは今日何がいい?・・・・分かった、すぐ帰る。」

 レイナという名前が出てきたということは、姉からだろう。

暁「姉さんか?」
レドナ「あぁ。」
暁「お前、姉さんはこの事知ってるのかよ?」
レドナ「・・・・。」

 夜城は応えずに、背中を向けて屋上を後にした。

レドナ「一つだけ教えてやる、しばらくの間俺とお前が会う時は同級生としてだ。
    強いて言うなら、また明日ってやつだな。」

 それだけ言い残すと、夜城は校舎内に姿を消した。

暁「夜城・・・。」

 リネクサスとは一体何なのか、太陽系の統合を掲げる輩の集まりではないのか。夜城の戦う理由は他にあるのは間違いない。
それと最後に夜城が言った言葉も気になる。"しばらくの間俺とお前が会うときは同級生として"。
つまり夜城は次に会うのは戦場ではないといいたいのか。疑問が残ったが、問い詰めても彼は答えてくれないだろう。
 俺も夜城について、今はARSに報告するのはやめようと思った。


 -12/2 PM05:12 登下校道-

???「一言多かったな、夜城。」

 俺は俺よりも冷たい声に呼び止められた。その声の持ち主は"ナーザ・エンシュメイス"。
俺も詳しくは知らないが、リネクサスの上の方の男だ。

レドナ「聞いていたのか。」

 盗み聞きというのは好きではない。さっきの話など特にだ。

ナーザ「エルゼ様の命令でお前のある程度の自由は黙認するが、勝手に敵に情報を教えてもらっては困る。」
レドナ「かなり遠まわしに言っただけだ。」

 俺はナーザの横を通り抜けた。

レドナ「俺だって大事なもん背負ってんだ、そっちが約束を守るなら俺は力になる。」
ナーザ「全ては我々リネクサスに任せればいい、お前の望む世界を創造してやる。」
レドナ「世界なんて要らない、俺はただ"普通"が欲しいだけだ。」

 ナーザから逃げるように俺は走り去った。分かっていることを言われると霧消に腹が立つ。
リネクサスは政府が公表しているように野蛮な奴等なのだろう、だが俺にそんな事は関係ない。
俺の望みを叶えてくれるのであれば、俺は神にも悪魔にもなってやる、それだけだ。
 早くレイナの待つ家に帰りたかった。


 -12/2 PM06:12 鳳覇家-

暁「だからさ、お前もアイツをリネクサスだって目でみないでおいてやってくれないか?」

 俺は真からかかってきた電話に出ていた。放課後の結果が気になったらしい。まぁ、気持ちは分からなくもない。

真「なるほどな・・・、でもそいつはお前に対する心理戦かもしれないぜ?」
暁「たしかに、でもどっか信用できるんだよな、不思議と。」

 俺は頭を掻いた。最後に見せた姉と電話する夜城の表情は戦いとは無縁と言ったような感じだった。

真「お前俺の馬鹿がうつったか?」
暁「そりゃねぇよって。」
真「分からねぇぞ~。まぁ一応俺も普通に夜城とは接してみる。
  ただ、その後はどうするんだ?」

 そう、問題なのはその後だ。

暁「そこが問題なんだよ、何にも思いつかねぇ。」
真「ま、とりあえずそれはアイツの善悪の判断がついてからにしようぜ。
  今からどうこうしたって、結局は予想外のことが起きるかもしれねぇしさ。」
暁「だな、サンキュー、助かったぜ。」
真「おう、困ったときはお互い様だぜ!
  ってわけで、俺も助けてほしいんだけど。」
暁「どうしたんだ?」

 真がすこしもじもじした声で話し出す。

真「その・・・よぉ、小夜が夜城のことどんな風に見てるか、さりげな~く聞いといてくれないか?」
暁「なんだ、自分で聞けよ、そんぐらい。」
真「俺そんなキャラじゃねぇだろ?な、頼む!」
暁「はいはい、分かった分かった。」

 じゃあ俺はそんなキャラなのだろうか、もういい加減両思いであることを告げたくなった。

真「いやぁ、やっぱり助け合いっていいな、うん!」
暁「利用されてる気がすんのは気のせいか?」
真「気のせい、気のせい、木の精霊ってな、んじゃな!」

 強引に通話が切れた。一息つくと、また電話がかかってきた。今度は岸田からだ。

暁「もしもし?」
小夜「あ、鳳覇君ごめんね、夜遅くに。」
暁「別にいいけど、どうした?」

 なんとなく察しはついているが。

小夜「あのさ、さりげな~くでいいんだけどさ・・・。
   私、夜城君みたいにクールなのは苦手~みたいなこと真に言ってくれないかな?」
暁「はいはい、承知いたしましたと。」

 推測が当たったことに素直に喜べない自分がいた。

暁「もういい加減にもう告白しちまえば?
  長い付き合いなんだし、真も気があると思うぜ?」
小夜「告白したいのは山々なんだけどさ、どうしても2人きりでいると照れちゃって・・・えへへ。」
暁「・・・なんか、大変だな。」

 携帯ごしに岸田の顔が赤くなるのが分かった。

暁「お節介かもしれねぇけど、思いは伝えられるうちに伝えといたほうがいいぜ。
  結果はどうであれ、伝えられずに後悔するよりもずっといい。」
小夜「鳳覇君もそんなかっこいい事言うんだ~、彼女でも出来た?」
暁「まだいねーよ、ちょっとそう思っただけ。」

 実際に戦いを通して、死との距離がぐっと近くなったから言えたのかもしれない。
思いを伝える相手がいるっていうのは、羨ましいし、いいことだと思う。

小夜「ふ~ん、でもなんだかグッときちゃった。
   なんだか鳳覇君最近すごく変わったって思うよ。」
暁「どういう意味だよ。」
小夜「なんだか、前よりかいい鳳覇君になってるよ、上手く説明できないけど。
   もう"普通"ってやつから抜け出せたのかな?」

 普通、もう俺には無縁に近い存在だった。

暁「いや、普通から抜け出そうなんて馬鹿なこと考えるのはやめたよ。
  俺はその意味を履き違えていたんだって思う。だから・・・かな。」
小夜「なるほどね・・・・羨ましいなぁ、鳳覇君。」

 岸田はぽつりと呟いた。

暁「何でだよ。」
小夜「ううん、な~んでもない。ごめんね長話しちゃって。
   それじゃ、おやすみ!」
暁「お、おう、また明日。」

 小夜は照れたように電話を切った。女心というのはよく理解できない。
 なんだか、2本の立て続けの電話にどっと疲れた。仲人役も大変だ。俺は多くため息を付いた。
すると、再び携帯が音を鳴らして震えだした。また電話だ。だが、相手は非通知でかけてきている。
いや、非通知なんかではない、番号がこの世の文字で表されていないのだ。
 俺は恐る恐る通話ボタンを押した。

暁「・・・もしもし・・・?」
???「こんばんは、君が鳳覇 暁だね?」

 聴き覚えのない声、それにどこか恐怖を感じさせるような声だった。

暁「誰・・・ですか?」
エルゼ「私はエルゼ、いずれ君とは顔を合わせることになるだろう。」

 何を言っているのかさっぱり分からない。

暁「なら、何故電話を?」
エルゼ「いまから君に会っていると時間がないからね。
    我々も政府の公式発表があって準備が必要なのだよ。」

 我々と言う事は複数の組織、それに準備が必要と言っている。レドナの言葉が頭をよぎった。
"しばらくの間俺とお前が会う時は同級生としてだ"、つまりこの準備期間を指しているのか。
となるとこの話の相手は――。

暁「お前、リネクサスか?」
エルゼ「そのとおり、私はリネクサスの総司令だ。」
暁「!?」

 リネクサスを管理している総司令、そいつがなぜ俺に電話をしてくるのか。

エルゼ「ま、驚くのも無理はないかもしれないね。
    ところで、君に一つお願いがあるんだ。」
暁「敵の頼みなんて聞こうとは思わない。」

 俺は強気で出た。今すぐにでも電話を切って逃げたいと思ったが、もうそんな事はしたくなかった。

エルゼ「随分と強気だね、まぁ聞くだけ聞いてくれ。
    単刀直入に言うが、サンクチュアリを返して欲しい。」
暁「ほんとに単刀直入だな、でも断るぜ。」

 正直なところ、本当にそう来るとは思っていなかった。そこまでするほどアルファードは凄いのだろうか。

エルゼ「なら問おう、君はこの世界に対してどう思っている?」
暁「どうって、どういう意味だよ。」
エルゼ「君はこの世界が可笑しいとは思わないか、人間というのは神が創った欠陥品といっても過言ではない。」

 何となくだが、エルゼの言っていることは分かった。

エルゼ「一度は我々も人間という存在に賭けてみたさ、そしたらどうだ?
    人間は文明を自分勝手に発展させていき、挙句には環境を破壊し、いまや地球は屍となっている。」
暁「あんたらは、その復讐で俺たちを殺すのか?」
エルゼ「逆に問おう、犯罪者を裁くのに何か問題があるか?」
暁「くっ・・・。」

 俺は返す言葉がなかった、皮肉にもエルゼが言っていることは間違っていない。

エルゼ「例えて言うなら君がせっかく創り上げた美しい庭を汚されたら腹が立つだろう?
    それを惑星規模に修正したものがこの話だよ。」
暁「お前達がこの地球を創造したっていう証拠はあんのかよ。」

 エルゼの話には筋が通っている、だがその原点の話については聞いていなかった。

エルゼ「我々は太陽系と共に生まれた存在だ、ビッグバンも我々の先祖が意図的にしたことに過ぎない。
    つまり我々が居なければ人間も生まれなかった、進化論の始点は無かったのだよ。」
暁「さっき人間は神が作った欠陥品って言ったよな?」
エルゼ「あぁ、だから我々は神だ・・・といいたいところだが、神はもっと上の存在だと私は認識している。」

 エルゼが神であるというのなら笑い話だが、そうではないらしい。

エルゼ「我々の祖先がビッグバンを起こした、その起こした動悸は何なのか。
    そう考えた時に答えはない、だがその答えは神がそうさせたから、という理由で完結する。」
暁「ただのいいわけじゃないのか?」
エルゼ「君が榊 輝咲と出合ったのは何故だと思う?」

 再びエルゼは内容を変えてきた。

暁「運命・・・じゃないのか。」
エルゼ「ならばその運命を司るのは誰だと思う?
    それこそが神だ、残念ながら我々は君の運命を変えることはできない。
    だが神は君の運命を変えた。」
暁「俺の運命を?・・・・・!!」

 そうだ、俺の運命は変わっているのだ。輝咲は未来から来た人物、ならば輝咲に出会わない未来が俺にあるはずだ。

エルゼ「分かったか?神は榊 輝咲と君をリンクさせた、それが生む結果は我々にも分からない。」
暁「お前は未来を知っているのか?」
エルゼ「君と榊 輝咲がリンクしていない世界の未来なら、私はこの目に焼き付けてきた。
    まぁ、榊 輝咲の世界を消滅させた事実が未来に残っているのだからな。」

 輝咲は未来のこの結末を変えるために今へ来た。そう考えるとエルゼの話は本当のようだ。

エルゼ「ただ、2人がリンクしていない世界でも君と私は顔を合わせることとなった。
    面白い例えを出すなら、リンクしていない世界では君はニューゲームでスタートした。
    今の世界では隠しコマンドを使った強くてニューゲームというのでスタートしているということだ。」
暁「ふざけてるのか?」
エルゼ「いや、君に分かりやすい例えを出したまでだ。」

 エルゼのさっきの例えは確かに分かりやすかった、ただ普通のニューゲームでのスタートというのは何なんだろうか。

エルゼ「さ、我々の話は終わりだ。我々は汚された世界のためにサンクチュアリを必要としている。
    汚された世界を取り戻し、新世界にするためにな。」
暁「・・・結果は変わらない、ノーだ。」
エルゼ「そうか・・・・、ならば、君は庭を汚した相手をどうする?」
暁「俺はお前達が庭の持ち主とは思っていない、神がそう仕向けたなら庭は神が必要としていたからなんじゃないのか。」
エルゼ「ほぉ・・・面白い答えだな。確かに、そうかもしれないな。
    なら、神が庭を創らせた理由を聞くにはどうすればいい?」
暁「そ、それは・・・・。」

 盲点を突かれた。さっきの一言で俺はエルゼに勝った気がしたが、向こうの方が一枚上だったようだ。

エルゼ「ははっ、君には少し難しかったようだね。
    かといって私もすぐに答えられる質問ではないが。」
暁「・・・悪かったな。」
エルゼ「気を悪くしないでくれ、今日のところはこれぐらいにしておくよ。
    ・・・・そうだ、もう夜城 レドナには会ったようだね。」
暁「あぁ・・・それがどうした。」
エルゼ「極力彼の言うことは信じておいていい。もう言ったかどうかは分からないが彼の敵は――」
暁「"サンクチュアリ"の"ドライヴァー"だろ?」

 屋上での会話が蘇った。

エルゼ「あぁ、それは本当に言葉のとおりだ。君が変なアクションを取ると彼自身が困るからね。
    少し気にしておくといい。」
暁「どういう意味だよ!?」

 夜城自身が困る、つまりリネクサスとは関係無いところで彼に危機が生じるということなのだろう。

エルゼ「我々が彼に命令したのは"サンクチュアリ"の奪還または撃墜だけだ。
    君が下手にサンクチュアリを扱えば、彼は出撃することになる。」
暁「アイツは戦うことを嫌ってるってのかよ!?」
エルゼ「ふっ、さすがにそれ以上は私の口からは言えない。
    さて、オマケ話が長すぎたね、それじゃまた今度会おう、鳳覇 暁。」
暁「ちょ、待てよ!!」

 すでに電話は切れていた。着信履歴を見てみたが一切履歴に残っていない。
かといって履歴に残っていてもかけなおす勇気は俺には無かった。
 改めて身近に感じる敵"リネクサス"、そしてその総司令と名乗るエルゼ。あいつは俺と輝咲がリンクしていない未来を知っている。
ならば、リンクした世界ではアイツを倒せるかもしれない。俺にはアルファードがある。
 何処からか俺は自信が湧いていた。その反面、敵の身近さを感じて恐怖を感じている自分も居た。

 政府の発表がリネクサスの準備期間を作らせたということは、向こうはそれなりの覚悟をしているに違いない。
アルファードが世界を滅ぼし、新世界に変えるための鍵というのなら向こうは本気で奪いに来るだろう。
こっちも覚悟をしておかねばならない。
 それとエルゼが触れていた夜城のことについても気になる。俺の行動が夜城を困らせるのか。しかも彼の言葉だとそれはリネクサスには関係ない所で。

暁「ったく、何が起こってんだよ・・・。」

 しばらくのリネクサスの準備は、俺のためのものなのかもしれない。エルゼ、夜城、一体裏で何がどう交差しているのだろうか。

EP06 END


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